普通輝石 augite (Ca,Mg, Fe)SiO3 戻る

※普通輝石は約800℃以上の高温条件での固溶組成の輝石であり,ほぼ火成岩固有の鉱物である。

単斜晶系 二軸性(+),2Vz=25〜50° α=1.662〜1.735 β=1.670〜1.741 γ=1.688〜1.761 γ-α=0.018〜0.04(屈折率・干渉色はFeに富むものは高い)


色・多色性
通常の岩石中のものは,無色・淡緑・淡褐色(Feに乏しいものは無色)で,多色性は弱いか,ほとんどない。一方,アルカリ岩類(閃長岩やトラカイトなど)ではエジリン成分NaFe(SiO3)2に富む「エジリン普通輝石」が出現し,これは明らかに緑色がかり,緑系〜褐色系の明瞭な多色性を示す(X´=緑色,Z´=褐色)。そのような,アルカリ岩類にはTiO2が数wt%含まれるチタン普通輝石titanoaugiteが出現することもあり,それは淡緑〜淡紫褐色のやや弱い多色性を示す(X´=淡緑系,Z´=紫系)。

形態
火山岩中では短柱状,深成岩中では他形。

へき開/2方向(C軸方向)に明瞭。C軸方向からはほぼ90°に交わる格子状に見える。C軸に直角の方向からは1方向しかないように見える。

伸長/消光角が大きいので伸長の正負はわからない。

消光角
/C軸に直角の方向から見た,1方向しかないように見えるへき開線に対し,最大40°前後(b軸方向から見た場合)。
※頑火輝石はへき開線に対し直消光。角閃石類はへき開線に対する消光角が20°程度で,かつ,平行ニコルでははっきりした色で強い多色性がある。





双晶/(1 0 0)の双晶が存在することがあり,それが2〜数回反復していることもある。まれに(0 0 1)の双晶も見られる。なお,(1 0 0)の双晶ではへき開線は双晶境界で連続しているが,(0 0 1)の双晶ではへき開線が双晶境界で屈曲する。




普通輝石(A)の(1 0 0)の双晶
Pl:斜長石
無色に近いため多色性はあまり無く,双晶は平行ニコルでは認めにくいが,クロスニコルでは双晶ドメインの結晶方位による干渉色の違いや消光状態で認められる。これは(1 0 0)の双晶で,へき開線は双晶境界で連続している。一方,(0 0 1)の双晶ではへき開線が双晶境界で屈曲する。





累帯構造しばしばCa⇔Na,Mg⇔Feなどの置換による累帯構造があり,Feの多い部分はやや緑味を帯び,Mgの多い部分は無色に近い。クロスニコルではFeの多い部分はやや干渉色が高い。アルカリ火山岩ではエジリン成分の多い部分とそうでない部分が累帯構造をなしていることも多い。



産状
普通輝石は約800℃以上の高温条件での固溶組成の輝石であり,ほぼ火成岩固有の鉱物で,変成岩には極めてまれ(高温でできたグラニュライトに時に含まれる程度)。中性〜苦鉄質の火成岩に見られる(なお,超苦鉄質岩の単斜輝石は透輝石組成のことが多い)。なお,深成岩のような徐冷した岩石では温度低下の際に普通輝石中に頑火輝石の離溶ラメラが生じ,それが(1 0 0)の1方向に見られることがある。
なお,アルカリ岩中のものはエジリン成分に富む傾向があり,明らかな緑色で累帯構造が見られることも多く,また,Tiに富む褐紫〜淡赤紫色のチタン普通輝石が出現することもある。





はんれい岩中の普通輝石(A)

Pl:斜長石,Mt:磁鉄鉱
はんれい岩には主要な造岩鉱物として普通輝石や頑火輝石が含まれ,普通輝石は頑火輝石よりも干渉色が高く(2次に達する),へき開線に対し斜消光することで区別は容易である。





玄武岩の石基中の普通輝石(A)
Pl:斜長石,平行ニコルで黒色不透明の粒は磁鉄鉱
安山岩や玄武岩の石基には細かい斜長石や普通輝石などが無数に含まれる。薄片中のこれらの鉱物は厚み(太さ)が0.01mm程度なので,普通輝石も1次の白程度の斜長石に似た干渉色を示し,クロスニコルでは斜長石と紛らわしい。しかし,平行ニコルでは斜長石よりも屈折率が高く,輪郭が明瞭なので区別できる。



アルカリに富む安山岩中の累帯構造がある普通輝石(エジリン普通輝石)

中央の自形の短柱状結晶が普通輝石。結晶中央付近は緑色が濃いエジリン成分に富むエジリン普通輝石で,結晶周辺部はエジリン成分が少ない無色の普通輝石。

平行ニコルでは,結晶中央付近のエジリン普通輝石はX'=濃緑色,Z'=帯緑褐色の強い多色性を示し,結晶周辺部のエジリン成分が少ない普通輝石は無色で多色性はない。アルカリに富む火山岩中の普通輝石は,このようにエジリン普通輝石成分に富む部分とそうでない部分とが累帯構造をなしていることが少なくない。そして,この画像のものは中央のエジリン普通輝石と周辺の無色の普通輝石との境付近がわずかに紫褐色を帯び,その部分はTiの多いチタン普通輝石である。チタン普通輝石もアルカリに富む火成岩に頻繁に見られる。

一方,クロスニコルでは,そのような累帯構造のある普通輝石は,エジリン成分に富む部分は干渉色が高く3次に達し,そうでない部分は2次程度で低い。そして,上のクロスニコルの画像のように結晶中央のエジリン成分に富む部分と結晶周辺部のエジリン成分に乏しい部分では消光角も異なり,結晶全体で波動消光を示す。






閃長岩中のチタン普通輝石 (平行ニコル)
Ti-A:チタン普通輝石,Af:アルカリ長石
閃長岩などのアルカリ深成岩の普通輝石は数wt%のTiO2を含むチタン普通輝石のことがあり,それは紫赤色を帯び,淡紫〜淡褐紫〜淡緑色の明瞭な多色性を示す(X´=淡緑色系,Z´=淡紫〜淡褐色系)。これと同様なチタン普通輝石はアルカリ火山岩にも斑晶や石基鉱物として見られる。


チタン普通輝石の結晶方位による多色性